子どもの生きる力を育む遊びとは?ー3人の保育士さんによる子どもと大人のあそび、まなぶ場

あなたのお子さんは、家にいる時にどんな遊びをしていますか?
どうしても動画やゲームといった受動的な遊びをする時間が増えてしまうという悩みも多いかもしれません。

子どもにとって遊びは、生まれて初めて見る世界を知ったり、自分のできることを増やしたりといった学びでもあります。
子どもたちに生きる力を育んでほしい。でも、どのような遊びが、子どもの力を伸ばすのでしょう?

「子どもたちの生きる力を育む遊び」を家庭にも届けたいと、3人の保育士さんたちが立ち上げた会社が横浜にありました。

株式会社Coanna(コアンナ)のみなさんは、3人全員が保育園、幼稚園で勤められたベテランの保育士さんたち。今回は彼女たちが行うイベント「こどもデザイナー体験」で、プロの保育士の声のかけ方や遊びの工夫を見せていただきました。


株式会社Coanna 左から 井口さん、宮澤さん、浜田さん

子どもが熱中して遊び、学ぶ体験

「こどもデザイナー体験」のイベントでは、Tシャツに自分で描いた絵を刺繍してもらいます。

子ども達は、Tシャツに刺繍したい絵を描き、Tシャツの色を選び、絵の配置を決めます。刺繍は、プロの刺繍工房さんがミシンで行います。


ミシンの説明をみる参加者の子たち

今回参加してくれたのは、4歳から6歳の女の子たちでしたが、みんな驚くほど真剣に制作の流れを聞いていました。
「子ども達は、未知のものに対して”なんだろう”って、興味を持つから話を聞くんです」とCoannaの宮澤さんが教えてくれました。

絵の制作がスタートすると、二人の子はどんどん描き始めましたが、一番年上の子は緊張した面持ちで、なかなか描き始めることができません。
「たくさん描いてその中から一つ選べばいいよ。紙もいっぱいあるから大丈夫だよ」とCoannaの井口さんが声をかけます。
それで少しほっとした表情を見せたその子は、何を描こうか考え込みました。

先に描き始めた二人は、お隣の様子をちらちら見ながら更に描き進めています。

別室から見守ることでわかること

この時、別室では保護者の方々がその様子をモニター越しに見ながら談話タイム。

「うちの子、真似ばかりしているんです」と一人が言いました。
それに対し、別の人が「うちはどんどん真似して盗んでいけって思ってますよ」と笑顔で返します。
「自分なりの素敵なものを作り上げるために、今はたくさんのものを真似して吸収しているんですよ。成長したらまた変わってくるから楽しみにしましょう」とコアンナの宮澤さん。
同じ子育て中の方や、保育士の方とのお話で、いつも見ていた子どもの姿がまた違って見えるようですね。

お絵描きの現場では、大人は静かに子どもたちの様子を見守っています。

「ちょうちょの羽ってどうなってるのかなあ?」と一人の子がいいました。
この時にもし近くに図鑑などがあれば、こうした子どもが興味を持ったタイミングで図鑑を見せると知りたい気持ちを伸ばしていけると宮澤さんは教えてくれました。

たくさんの絵を描いた子どもたちを眺める別室では、「親子別々の部屋でよかったです。横にいるとついあれこれ言ってしまって」
と仰っている人もいました。

最終的にどの絵を刺繍にするかを選ぶとき、子ども達はみんなすぐに決めることができました。自分の中の感覚で「これだ」というのがわかっているようでした。


「自分の感覚」をよくわかっている子どもたち

発表 ー 良い緊張と、子ども達同士の認め合いの時間

Tシャツの色と配置を決めたら、お友達の前で発表です。
「一番に発表する人」と井口さんが言うと、一人の子がすぐに手を挙げました。

「色はどれにしましたか?」
「ピンク!」
「どうしてこの絵にしましたか?」
「これが一番うまくかけたから」
そんな風に発表は進みます。
小さい子の発表はどのようにやるのかなと思って見ていると、子どもが答えやすいような質問の仕方をしていることに「なるほど」と感心させられました。

「みんな、この絵どうかな〜?」
「じょうず!」
一番年上の子の絵に、他の二人が口を揃えて言いました。
その言葉に、お姉ちゃんもすごく嬉しそうににこーっと笑顔を見せてくれました。
子ども同士のこうした言葉が、大人がかける言葉よりも響いたりするそうです。
保育士さんはそうしたことを知って、うまく促してくれているのですね。

短時間でも育まれた絆ーCoannaのみなさんとの特別な時間

終了後の感想を保護者の方に伺ったところ、最初になかなか描き出せなかった一番年上の子についてこんなことを仰っていました。
「ひとつの絵にあんなに集中したことはなかったです。いつもはスピード感のある感じで描いているので。今日は特別感を持って描いてたのかもしれません」
6歳にもなると、これが特別なものだというのがより理解できていて、いつもと違った体験に良い緊張感を持って臨んでいたのですね。

みんなが見守る中、満足いくものができた彼女は、終わった後に保育士の井口さんと刺繍の小宮さんの二人に笑顔でぎゅっとハグをしにいきました。

1時間のワークショップで、交わした言葉も多くはなかったけれど、その中でも彼女の表情がどんどん変わっていって、最後にはキラキラした笑顔と、寄り添ってくれたお二人への強い信頼感を見せてくれたのがとても印象的でした。


コアンナの井口さん、浜田さん、刺繍工房の小宮さんと制作をする子どもたち

能動的に遊び、世界を知る

「子どもたちは遊びの中で、自分の興味関心があるものを見つけます。保育士は、園での生活の中で周りにあるものや友達との関わりの中から、子ども達の能動的な活動を引き出すようにしています」
と宮澤さん。


ワークショップの振り返りを行うCoannaのみなさん

Coannaのワークショップでは、そうした保育士さんが園でしている工夫を散りばめた遊びを保護者の方達が「見る」ことに意味があります。
子どもの遊ぶ様子を見て、他の保護者の方や保育士である宮澤さんらと一緒にお話しすることで、日々の生活の中での子どもの遊びに対する眼差しが変わったり、違った声掛けができたりするようになりそうです。
この経験によって、毎日の生活の中にある子どもの遊びの時間がより楽しい学びの場になったり、親子の温かいやりとりの場になれば、とても素敵ですね。

専門家とのコラボレーションで、色々なお仕事を知る

今回のワークショップでは、刺繍工房の小宮さんとのコラボレーションでしたが、今後はまた別の専門家の方とのコラボレーションも色々行っていくそうです。
そうすることで様々なお仕事について知る機会も作っていきたいとのことでした。

回を重ねて参加することで、大好きなCoannaのみなさんに会えて、新しい体験が毎回できるのは楽しみですね!

「子どもたちが夢中になっている時の楽しい、キラキラした笑顔をぜひ見ていただきたいです」
Coannaのみなさんから、親御さんへのメッセージです。
宮澤さん、井口さん、浜田さんの作る温かい遊びの場に、ぜひ遊びに行ってみてください。