「産み育てる」って何だろう?子育てや自分自身のココロ・カラダ・人生と向き合い、新たな自分を再発見できる居場所 ー 横浜駅徒歩10分 Umiのいえ

出産前に、産後の身体のことについて知りたい。
産前産後や子育て中の、友達には気軽に話せないような悩みをスッキリさせたい。
子どもの障害について語れる仲間が欲しい。
健康的な食事を作ったり、身体を動かしたり、心だけでなく体も癒せたらいいな。

横浜駅西口から約10分歩いたところにある「Umiのいえ」では、そんな心と身体の健康につながる様々なワークショップが連日開催され、子育て中のママをはじめ、様々な方たちが訪れています。

「いらっしゃい!」と、満面の笑顔で元気にお出迎えしてくださったのがUmiのいえの代表、齋藤麻紀子さん。その笑顔を見ただけで、初めて訪れた時の不安感も一気に払拭され、心身ともに包み込まれそうな雰囲気が漂ってきます。

現在、28歳・26歳・24歳のお子さんがいらっしゃる齋藤さんは10年間育児サークルを運営していました。2006年に産科医師不足により全国の産院が相次いで閉鎖し、安心してお産ができなくなるという社会問題が起こりました。その頃より「産後うつ」にかかる人の急増を目の当たりにしたそうです。
そんな世の中で「産むことや育てることに安心が必要なのではないか?」という想いから、齋藤さんは2007年に子育て支援サロンUmiのいえを始めました。

「医療者ではない自分ができることはなんだろうか?」

齋藤さんは、そう常に自分自身に問いかけてきました。産前産後のお母さんたちの食の基盤やセルフケア、予防医学などについて外部より講師を招き、勉強会を開く。核家族化が進み、昔なら親や祖父母から教わってきたことをワークショップ形式で行う。そうやって『集い、繋がりあい、共に学びあい、経験を分かち合えるような場』を提供してきたそうです。

齋藤さんがUmiのいえの由来を教えてくださいました。
◎【海】のいえみたいに裸足になれる。寝転ぶことができる。
◎赤ちゃんを【産む】。産めるかなと悩む過程も含む。
◎夢を【生み出す】。
◎【膿】を出す。
全て「うみ(む)」の言葉が掛けられています。

「自分の子どもだけでなくて、周りの子どものことも考えられるようなお母さんが増えるといいよね」「そして、今の小さな子たちが高校生になる頃も、安心できる家・お弁当を作る『お母さん力』が必要。だから、15年後もお母さんには元気でいてほしいと思う。」静かに話し始めた齋藤さん。でも、語るその目には、力強い何かがみなぎっていました。

核家族で育ち、地域との縁も薄いまま、産前から周囲に頼れずに一人で頑張っている今のお母さんは、肩の力を抜くこともできずに必死です。息の仕方も忘れています。だからこそ、人と人がつながり、ココロもカラダも緩められるようになることを願っているそうです。

Umiのいえでは、話す・ゆっくり寝転ぶ・思いっきり身体を動かす・マッサージをしてもらう…など、お母さんの心身の健康に繋がる講座や集いを日々提供しながら、想いを託しているのでしょう。

「親にはわかってもらえないことをわかってくれる人の存在、親ではなくてもしっかり叱ったり、ほめてくれたり、話を聞いてくれる人の存在は必要だと思うの。」そう話す齋藤さん。
近所のおばちゃんみたいに第三者の目があるだけで、子どもも救われることもあるでしょう。もちろん、お母さん自身も自分の気持ちにブレーキをかけることができたり、一歩後ろに下がって物事を見つめることができるようになるかもしれません。
『子育ては1人で抱えなくていいんだよ、みんなで育てていけばいいんだ』と気持ちが楽になりました。

自宅のようにくつろげる畳の部屋

Umiのいえを訪れた日は夏休みに入ったばかりで、いつも以上に子どもたちの人数も多い日でした。ある部屋では、手を動かして無心になれるようなハンドメイドワークショップ「糸かけ紙刺繍」が開かれ、その横で子どもたちは自分たちで遊びを作り上げて楽しんでいました。昼食時は、床一面に敷かれた畳の部屋で、午前中に開かれた3つのワークショップの参加者が、持参したお昼ご飯を囲みながら交流を楽しんでいました。食後も自宅のようにくつろいている様子が印象的でした。

午後は、壁に大きな木が描かれたお部屋で、「人生の楽しみ上手になる表現あそびの会」が始まりました。

声以外の手段で自己紹介をすることから始まり、身体全体を使って、相手とコミュニケーションを重ねていきます。相手の気持ちや相手が今やろうとしていることを推測しながら、力を合わせて1つの作品を作り上げたり、手から手へ声のない言葉をリレーさせたりするワーク。4人で4段ピラミッドを作る、相手の動きに合わせてついていくなど、普段の生活の中にはないとても近い距離感で行ったワークは五感を研ぎ澄まされる時間でした。


▲人間ピラミッドの周りには子どもたちも寄ってきます。

汗が噴き出してきたり、息が上がってしまったりしながらも、会の終わりのころには一体化する気持ちよさを感じ取ることができたように思います。最初は我関せずと自由に動き回っていた子どもたちも、段々と大人たちの遊びの雰囲気に惹かれるかのように加わってきました。そして、初参加の方が多かったにも関わらず、2時間のワークショップが終わる頃には緊張していた顔も身体も緩み、笑顔と賑やかな声があふれていました。
「正しい」も「間違い」もないこのワークショップは、自分の気持ちを体現するのにもってこいの時間なのでしょう。


▲講師の1人、かめおかさん主導によるワーク。声以外で相手に伝えていきます


▲みんなで身体を動かしながら自分を表現します。

地域を超えて集える場

現在のUmiのいえは、子育て支援にとどまらず、「障害」「シングル」「不登校」「里親」「不妊」「性別違和」など、他のみんなと違うことを抱えて生きづらくなっている人も集えるワークショップも開かれるようになったそうです。大人のみで学べる「ファシリテーション」や「お手当て」の講座、助産師さんなど医療者・専門家向けの講座も開催されています。

親子、学生や専門職、結婚前の人、子どもがいない人、障害のある人など、様々な立場の人たちが集うことで、今まで知らなかった世界を知ることができる貴重な場となっているUmiのいえ。

車いすが必要な方をUmiのいえがある4階までスタッフの皆さんで力を合わせて運んだこともあると、さらっとおっしゃっていたスタッフの上村さんの言葉も印象的でした。


▲Umiのいえのスタッフ、上村さとみさんにもお話を伺いました。

笑いもあれば、時には涙もあり、すべてを丸ごと受け止めて、どんな人も歓迎してくださる齋藤さんとUmiのいえを支える皆さん。ここにはその暖かさと物語がたくさん詰まっていることが伝わってきました。


▲いつでも温かく子どもたちを見守ってくれた、講師の篠さんの笑顔が素敵でした。

地域に根付いた支援の場が多い中で、Umiのいえは地域密着型ではない子育て支援の場となっています。加えて、様々なニーズに応えた独自の集いの場として開かれているため、横浜市内はもちろん、関東圏からはるばる足を運んでくださる方も多いそうです。遠くは北海道からの参加者も。地域密着型ではないUmiのいえだからこそ、ディープな話もできる安心感があるのでしょう。

今の自分に求めているものやニーズに合わせて、地域連携型の場と地域密着型ではない場を使い分けてみると、子育てはもちろん、自分自身が楽に生きやすくなるのではないでしょうか。

セルフケアをしたり、講座で学んだり、アウトプットをして、自分の心やからだの声に耳を傾けて、1つ1つ選択しながら人生を歩んでいけるように。今の自分に必要なものを探しに、Umiのいえに行ってみませんか?

文:まつもとまつり
写真:うえおかともこ