横浜市緑区霧が丘・ぷらっとkiricafeが作る助け合いの連鎖

横浜市緑区霧が丘では「小さな困りごと」を、地域の力で助け合って解決する人たちがいます。

その中心にあるのが、地域コミュニティカフェ 「ぷらっとkiricafe(きりかふぇ)」 です。
ぷらっとkiricafeHP:https://www.kirigaokaplatform.com/kiricafe

高齢者、子育て世代、学生、そして多国籍の住民。

属性が違う人たちが混ざり合うことで、街の「困った」を「楽しさ」に変えていく場所。

魅力あふれる「ぷらっとkiricafe」 の秘密に迫ります。

70代がレジに立ち、インド人がカレーを作る場所

横浜市緑区・霧が丘。

URの団地の一角に、70代のおじいさんがレジに立ち、インドの女性がキッチンでカレーを作り、小学生が宿題をしながらおやつを食べる——多世代・多国籍が「ごちゃ混ぜ」になって笑顔が溢れる場所は、2023年1月にオープンした「ぷらっとkiricafe」です。

「ぷらっとkiricafe(以下、kiricafe)」は、子育て世代、シニア世代、そしてインドやインドネシアなど多国籍の住民が協力して運営しているカフェです。

取材に訪れた日も、インタビューの最中に近所の子どもが「ただいま」と帰ってきて、レジにいたおじいさんが「おかえり」と声をかけていました。まるで誰かの家のリビングに招かれたような空気感です。

共同代表者の根岸あすみ(ねぎし あすみ)さんと武藏幸恵(むとうさちえ)さんは、そんな光景を眺めながら笑います。

「このカフェは、人の温かさでできています」

ママ友の2人が作り上げた居場所

運営共同者の根岸さんと武藏さんは、以前は「保育園のママ友」でした。

2人は、以前から地域活動に熱心だったわけでもなく、NPOを立ち上げた経験もなく、飲食店を経営したこともありません。

「子育てで困っている人がいたら、みんなで助け合いたい」と2人で話したことをきっかけに、小さなお困りごとを解決できたらいいなという想いで「まちプラス」という任意団体を立ち上げました。

コロナ禍になり、緊急事態宣言が出ると、小さな困りごとが出てきました。

ママ友の1人は、生後3ヶ月の双子、上の子は4歳がいて、保育園の送迎に困っていました。

コロナで里帰り出産もできず、夫は朝早くから仕事。毎日頼れる人がいない...どうやって保育園の送り迎えをすればいいのか、途方に暮れていました。

そのとき、根岸さんや武藏さんが車で送り迎えを手伝いました。

「でも、私たちだけじゃなくて、もっといろんな人同士で助け合えた方がいいなと思って」

2人は保育園のクラスに「みんなで困っていることがあったら、助け合おうよ」と呼びかけました。

すると、思ってもみない反応がありました。

看護師の仕事をしているシングルマザーの方が「うちの子を泊めてくれませんか」と声があがったのです。

夜勤シフトのとき、その方のお母さんが県外からサポートに来ていたのですが、コロナ禍の緊急事態宣言で移動自粛になってしまい、子どもの預け先がなくなってしまいました。

この件以外にも、普段は言い出せなかった「本当に困っていること」が、次々と出てきたのです。

「あ、みんな実は困ってるんだな、って気づいたんです。それを言える場所がないだけで」と根岸さんは当時を振り返ります。

「すぐ近くの公園なのに、何も知らなかった」

根岸さんが、kiricafe創設のきっかけになった、もう1つの原体験を語ってくれました。

「うちの子が2歳くらいのとき、朝6時に近所の公園を散歩するのが日課になってて。ある日、カンカンカンって音がして、何だろうと思ったら、インドの方がお祭りの準備をしてたんです」

霧が丘には、2009年にインドのインターナショナルスクールができました。

それをきっかけに、団地の賃貸部門の約半分がインドの方になるほど、急速に多国籍化が進んでいたのです。

「うちからすぐの公園なのに、全然情報が入ってこないんだなって。公園で遊んでても、インドの子と日本の子は別々に遊んでて」

もっと一緒に遊べたらいいのに。

英語は喋れないけど、インドのお母さんたちの井戸端会議に混ざりたい——。

そんな思いから、根岸さんは国際交流の団体を探し、活動に参加するようになりました。

しかし、地域には見えない壁がありました。

相手を知らないことで多くの誤解が生じていたのです。

当時の霧が丘は、多文化共生とは程遠い空気感だったといいます。

「居場所を作りたい」という声は、なかなか形になりませんでした。

共通の想いを持った団体と共に応募した、事業コンテスト

転機は2021年に訪れました。

横浜市の「ヨコハマ市民まち普請事業」という支援制度の存在を知ったのです。

この制度は、地域での活動の輪の広がりや地域コミュニティの活性化が目的です。

2021年開催のコンテストでは、参加団体の上位3団体に最大500万円の助成金が出ることになっていました。

「500万円あれば居場所が作れるかもしれない!」と不安と期待が入り混じる中、他の皆さんの後押しもあり、エントリーしました。

2人は「よしっ!やってみよう!!」と奮起して、他のシニア世代の交流団体、多文化共生を掲げる団体に声を掛け「常設の居場所を創ろう!」との共通の想いを胸に応募しました。

テーマは「地域で繋がり、楽しむ!多世代・多文化交流の新拠点!」

・根岸さんらが立ち上げた、子育て世代・多世代交流活動を進める「まちプラス」
・地域のシニア世代の交流を進める「福祉のまち 霧が丘」
・課題を楽しみながら解決する多文化共生を進める「KIC(霧が丘インターナショナルコミュニティ)」

この3つの団体の架け橋となる、多年齢多国籍が集まる居場所づくりが始まりました。

一次審査、二次審査を通過し、合格。

2022年4月にNPO法人を設立し、ぷらっとkiricafeがオープンしました。

「自分たちが一番びっくりしてます。短距離走みたいにダッシュで駆け抜けて、振り返ったときに、なんだかすごいことになっちゃったと、ゾッとしました」と、根岸さんは当時のうれしさと不安を話してくれました。

「俺たちは支える側でいい」と言ってくれたシニアたち

kiricafeの運営がスムーズに進んだ理由のひとつに、シニア世代との関係性があります。

kiricafeがオープンする前から、根岸さんたちは地域のシニア団体と月1回の情報共有会を続けていました。

あるとき、ママ友が「子どもの七五三写真をリーズナブルに撮りたい」と相談してくれました。

写真を撮る場所、カメラマン、ヘアメイクをできる人は見つかったのですが、着付けが出来る方がいません。

そこで、シニア団体に「着付けできる人いませんか?」と聞いたら、シニアの方々からたくさん手が挙がったのです。

そこから、どんどんと輪が広がっていきました。

シニアの方々が「インドのカレーを食べたい」と言えば、インドの方とシニアをつなぐ交流イベントを一緒に企画しました。

おいしいインドの自家製カレーを作るのは、もちろんインド人ママさんたちです。

持っているものが違うからこそ、助け合える関係が自然にできていました。

「多世代でうまくいかない団体って、シニアの方と子育て世代のパワーバランスが難しいのかなと思うのですが、私たちの仲間のシニアの皆さんは『支えます系』なんです。『僕たちが支えるから、あなたたちが前に出てこの活動を盛り上げていきなさい』と優しく見守ってくれています。会議でも揉めることがほとんどなくて。」

70代、80代のシニアと、30代、40代の子育て世代。そしてインドの方たち。

「ぷらっとkiricafe」は、今日も、世代や国籍が違う人たちが集まっています。

「インドの人、怖い」と言っていた子どもの変化

多文化共生という言葉は美しいですが、現実は簡単ではありません。

根岸さんの子どもは、初めて外国にルーツをもつ方と接するときに「インドの人、怖い」と言っていたそうです。

見た目が違う、言葉が通じないなど、子どもなりの不安があったのでしょう。

しかし、kiricafeでの活動を通じて、インドの友達が増えていきました。

「ある日、子どもが『インド人になりたい』って言ったんです」

親が変われば、子どもに伝わるものも変わります。

その成功体験が、根岸さんたちの背中を押しました。

今では、地元の小学校にも変化が起きています。

現在、霧が丘ではインド人だけではなく、インドネシア人もたくさん住んでいます。

地元の小学校では、インドネシアで多く信仰されているイスラム教に配慮する取り組みが行われてい
ます。

イスラム教は、お祈りの時間やラマダン(断食)の文化があります。

小学校がお祈りの時間や場所を用意するようになりました。

ラマダンの時期には、断食中の子どもが給食を見なくて済むよう、別室で待機できる配慮もあります。

「小学校もすごく変わってきました。多文化に積極的に配慮してくれている小学校はすごいと思います」と武蔵さん。

武藏さんたちは、外国籍の家庭で公立小学校に通う子どもの保護者向けに、グループLINEを作りました。

日本語が得意でない方や、日本の学校文化に慣れない方が多くいるからです。

「尿検査の説明や集団登校の案内など、インドやインドネシアの方には馴染みがないので、わからないですよね。巾着袋と書いてあっても、具体的にどんな袋か想像がつかない。LINEという手段で、すぐに誰かに相談できるという安心感。困ったら頼って欲しいんです」

衝突の原因は「文化」ではなく「性格」だった

異文化の衝突はないのか尋ねると、2人は顔を見合わせて笑いました。

「文化の違いではないですよ。インド人だろうが日本人だろうが、衝突するのは『文化』じゃなくて『性格』」

「確かに、時間にルーズな人はいます。でもそれは「インドの文化」ではなく、その人の個性です。日本人でも時間にルーズな人はいるし、インド人でも時間にきっちりしている人もいます」

もちろん国が違えば、文化や慣習も違います。

しかし、その違いも、お互いコミュニケーションを取ることで、学び合えるといいます。

kiricafeでは定期的に、店頭で野菜販売をしているのですが、これは主にボランティアスタッフのクリーンメイトさん(オープン前のお掃除)のシニアの方が率先してサポートをしてくれています。

一番最初に野菜販売をしたとき、インドの方が並ばずに押し寄せてしまったんです。

その時にそのスタッフの方が、地面に並び線を引いて「5人ずつ順番にどうぞ」と整列させたのです。

シニアの方は、英語が喋れる訳ではありません。ジェスチャーでも十分に伝わります。

「それ以降、列を知らない人が割り込もうとすると、インド人が「後ろに並びなさい」と注意してくれるようになったんです。日本の『並ぶ』という文化を受け入れてくれて、トラブルもありません。」

「本当に孤立している人」にも届けたい

ぷらっとkiricafeは今年で3年目を迎えます。

毎週さまざまなイベントが開かれ、曜日ごとにランチメニューが変わり、多くの人が集う場所になりました。

しかし、2人には課題意識があります。

「本当に困っている人に、ちゃんと届く場所になりたいんです。ただ楽しいだけの場所ではなく、本当に困っている人が、気兼ねなく来られるように」

今、kiricafeに来ているのは、比較的元気な人たちです。

一方で、本当に孤立している人、一人暮らしで誰とも会わずに生活している高齢者、学校に行けない子どもとその親など、そういう人たちにはまだ届いていません。

資金面の課題もあります。

現在、助成金や補助金等を申請しながら賄えていますが、運営者への給料は出ていません。

「私たち、しっかりと稼げたらいいなって言ってるけど、なかなかね(笑)」

子どもが小学生から中学生・高校生と成長するにつれてお金がかかります。

そのときにお金を稼ぐために他の場所に働きに出たら、kiricafeは続かないかもしれません。

「企業スポンサーとか、継続的な支援の仕組みを作りたいんです。今は立ち止まって、土台を整える時期かなと思っています」

「まずやってみよう」がモットー

「私たち、素直だねってよく言われるんです。
何かをやろうとなったとき、じっくり話し合わずにまずやってみる。ダメだったら直す。準備しすぎても変わることはあるから、ポーンとやってみて、どんどん良くしていく。

居場所があると、『まずやってみよう』それができるんですよ。1つの企画が失敗したとしても、この場所はなくならないから。」

いまでは、毎日のようにイベントが行われています。

kiricafeに来てくれる人が、企画を提案してくれたり、こういうイベントがあったらいいなという声を参考にしたりするそうです。

ハロウィンイベントは、シニアの方がウォーリーの衣装を着て、街の公園に隠れる一大イベントです。

子どもたちも楽しみにしていて、昨年はインドの子どもたちも参加してくれました。

「ラリーシートに日本語だけじゃなくて、英語もあったほうがいいよね」という意見があり、今年は英語を入れたラリーシートを作る予定です。

kiricafeには、不思議な「巡り合わせ」がよく起きるといいます。

「kiricafe内ではできない遊びをと思い、近くの室内スペースで遊べる卓球台を買ったんです。しかし説明書が全く読み解けない。途方に暮れていたところ、初めてお店に来た方が『組み立て、得意なのでできますよ』と、周りにいる人と一緒に組み立ててくれたんです」

「こういう奇跡みたいなこと、1回や2回じゃないんです。そういう連続で、いまのkiricafeがあります」

kiricafeには、いいことしか起きない。何かの神様に守られているのかもしれないね、と2人は笑います。

「自分の街にも」と思ったあなたへ

ぷらっとkiricafeの始まりは「保育園のクラスのママ友に呼びかけた」という、どこにでもありそうな一歩でした。

「みんなで困っていることがあったら、助け合おうよ」という一言から、思ってもみなかった「本当に困っていること」が出てきました。そこから繋がりが生まれ、場所が生まれ、今があります。

「ぷらっとkiricafeのようなコミュニティを立ち上げたいと思っている方がいれば、『真似してください』というより、どういう思いで立ち上げたか、やってる人たちを見てほしいんです」

場所によって必要なモノやコトは変わってくるので、形態、場所も規模も違って当然です。
自分の街で「こうなったらいいな」と思ったとき、まず小さく動いてみると、その積み重ねの先に、何かが生まれるかもしれません。

「私たち、普通の主婦だったんだけどね」と笑う2人の姿が、とても印象的でした。

多国籍・多年代が混ざり合う「ぷらっとkiricafe」に、ぜひ気軽に足を運んでみてください。

◆ぷらっとkiricafe
NPO法人霧が丘ぷらっとほーむが運営する地域コミュニティカフェ。多世代・多国籍の人が協力して運営し、コーヒーやランチ、イベントを楽しめます。
営業:9:30〜16:00(月火木金)、7:00〜9:00(土モーニング)
水・土・日は「学び場・イベントDAY」
住所:横浜市緑区霧が丘3丁目26-1 205(霧が丘商店会)
公式HP:https://www.kirigaokaplatform.com/kiricafe
インスタ:https://www.instagram.com/kirigaoka_platform/